ロング・バケーション (7)

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「なあ、やっぱまずいんじゃねえのか」
 ベジータが大人になった。
 ナッパは最初そう言って彼の行動を喜び、面白がっていたが、一年が過ぎてもその生活を止める気配の無い彼に、ある日とうとう意見して来た。
「フリーザに見つかっちまったらよ・・」
「見つかったら?どうだというんだ」
「い、いや・・」
 彼らの生活は、厳重な管理の下にあった。
 衣食住に関してはかなりの自由があった。衣食は要求した分だけ支給される。基地の外に居住することは許されなかったが、戦闘を好み、進んで星を渡り歩く生活を続ける彼らにとってはそれはほとんど関係無かった。
 だが、こと産に至る可能性のある行動についてはきつく縛められていた。妻妾を持つ事など無論認められていない。慰安の為に宇宙の各地から集められた女達や娼婦達が住まう数個の惑星と、侵攻先の星。それが彼らの自由行動が許された範囲だった。
『侵攻先では、基本的に好きなようにしてよろしい。ただし、不始末はいけませんよ。御自分の撒いたものは、きちんと始末して埋(うず)めていらっしゃいな』
 ぞっとするぜ。
 やっと少年と言える年齢に達した頃、わざわざ単身呼びつけられて聞かされた戒めだった。丁寧でねっとりとした口調を思い出し、軽い吐き気を覚える。
 禍根を残さぬに越したことはありません。余計なエネルギーは使いたくありませんからね。
 フリーザはそう言ったが、その言葉を真に受けるほど単純ならば彼のポストは勤まらない。
 奴は恐れている。
 混血によって強い力を持つ種が誕生することを。彼はその言葉を、そう読んでいた。
「女だったら惑星ケージで買えるじゃねえか」
 彼は湯を使って濡れていた髪を拭う手を止め、慰安星の名を口にした部下を首を巡らせて振り返った。
「何度言ったら解るんだ。俺はあの星の女を抱く気にはなれん」
「ベジータ」
「なあナッパよ」
 出浴時に着る吸水性の高い素材の衣服を脱ぎ捨て、新しい戦闘服に手を伸ばしながら彼は小さく溜息をつく。
「俺はお前にこの手のことでとやかく言ったことは無い。節度を守れという事以上にはな。違うか」
「そ、そりゃ・・」
「フリーザが、ガキだった俺に何と言ったか知ってるか」
「?いや」
「『不始末はするな』と言ったんだ」
「――」
「俺は完全にあの女の行動を掌握してる。監視も付けてある。どこに不始末がある」
「でもよ―」
「でも、何だ?孕んだらどうするんだとでも言いたいのか。それこそ、その時始末すればいいだろうが」
「―だが俺達ゃしょっちゅう遠征するんだ、知らねえうちに出しちまったらどうするんで」
「知らないうちにだと?そうだな、女も子も、それから役に立たん監視も始末すればいい」
「ベジータ、そんな話じゃないだろう」
 それまでナッパの隣で黙っていたラディッツが口を開いた。
「問題は、あんたのやってる事が既に軍規に触れてるかも知れんってことだ。それに、フリーザは俺達に『あの星の生態系の頂点にいる生物を一掃するように』と指令を出したんだぜ。ただの一人でも生き残ってりゃ、それ一つで正当な処罰の根拠になる」
「そうだ、そうだぜ。ラディッツの言う通りだ。確かにあんたは奴の気に入りだが―」
 フリーザの側近達は彼の事をやりたい放題の無茶苦茶な男だと言ったが、彼は厳密な計算の下その我儘振りを発揮している。
 本当に、困った坊やですね。
 彼が引き起こす大抵の問題は―いざこざや喧嘩沙汰ではなく、大方は命の遣り取りであったが―フリーザのその一言で片が付いた。怒りに触れぬぎりぎりのラインを、彼はよく弁えていたのだ。フリーザは時に自分の手を煩わせる彼の奔放な態度を、好ましいと思っている節さえあった。
 サルのくせに。
 野蛮だと蔑まれるサイヤ人でありながらフリーザの気に入りである彼には、あらゆる方面から風当たりが強かった。彼の鋭い聴覚は、自分が通り過ぎた後に囁き交わされる妬み混じりの陰口や悪口(あっこう)を捉えていたが、それらについていちいち反応することはしなかった。今は身を伏せておくべき時だ。やり過ぎるべきではない。間違えてはならない。十分、承知している。
 だったら、何故だ。
 ラディッツになど指摘されるまでもない。彼はとっくに自分の理屈の限界に気付いていた。常のように『困ったことですね』で済む話なのかどうか。賭けに出るだけの価値があることではない。それに敗れることは、即ち死を意味するのだ。



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