ロング・バケーション (10)

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 ラディッツが戻った直後、基地の最上階、フリーザの私室に出向くようにという命令を受けた。謁見室でも執務室でもなく、私室に呼ばれるのは初めての経験である。
 部屋に通され、驚いた。月光の照らし出すだだっ広い半球形のその場所で、調度と言える物は一抱えほどの丸いテーブルと、小柄なフリーザにぴったりした椅子一つだけだった。
 この男は―
 贅を極めた生活を送れるだけの力があるはずだった。床から天井まで半月形に切り取られた窓だけが、そこに果てしなく広がる漆黒の宇宙だけが唯一の贅沢であるこの場所で、何を思って過ごすのか。
 彼は、このがらんとした空間こそが、目の前にいる男が抱く底の見えない野望を表している気がして、内臓が煮られるようなむかつきを覚えた。ここから見えるすべてのものを手に入れる気に違いない。彼を含めた全ての兵士を、擦り切れて死ぬまで使い切りながら―
 室内にはフリーザ一人だった。窓辺に佇み、扉に背を向けていたが、彼が入室して挨拶の口上を述べると、少し振り返ってにっこり笑い、ここへおいでなさい、と側らに招いた。彼は敬礼し、少し下がったところまで進み出て跪く。
「驚いたようですね」
「――」
 何と返すべきなのか判断が付かず、彼は黙っていた。
「ふふふ、何も無いでしょう。私は一日の大半を執務室で過ごしますのでね、私室はこんなものですよ」
「―は」
「物質的な贅沢になど興味はありませんしね」
「なるほど」
「ベジータさん」
「はい」
「もしもどんな願いでも一つだけ叶うとすれば、何を願いますか」
「――」
「どうです?」
「―私は――」
「惑星ベジータの復活ですか?」
「いえ」
「では何を?」
「不老不死を」
 僅かの間、沈黙が降りた。フリーザが背を向けたまま続ける。
「―ほう・・理由は?」
「永久に戦闘を楽しむことが出来ます」
「は・・・」
「因果な奴とお思いでしょうが」
「いいえ・・ほほほ・・ほっほっほっほっほ・・・実に貴方らしい答えですよ」
「フリーザ様なら、何を願われます」
「あなたと同じですよ」
「―え」
「永遠に若いまま、永遠に生きること」
「――」
「未来永劫、この宇宙を支配し続けることが出来ますからね」
「―は」
「ふふふ・・気が合いますね、私たちは」
「恐れ多いことです」
 彼は片膝をついたまま一礼する。
「ところで」
「はい」
「最近よく休暇をとりますね」
 尋問が始まった。



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