ロング・バケーション (12)

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 部屋に戻ると、解放された二人の部下が扉の前で待ち構えていた。
「どうなったんだ?」
 部屋に入り扉が閉まるや、ナッパが、彼を覗き込むようにして訊ねた。
「どうにもならんさ」
「てこた・・」
「そういう事実は無かったことにするようだな」
 おお、と喜ばしげな声を上げ、彼の部下たちは顔を見合わせた。
「さすがベジータだ、奴を煙に巻いたんだな」
「馬鹿な」
 彼はナッパの言葉に鼻を鳴らす。
「奴が最初からそのつもりだったというだけだ」
「何にしても良かった、今度ばかりはどうかという気がしたしな」
 ラディッツが心底安堵したように大きく息を吐いた。
「だがそうなると、例の女とはこれきりって訳だな」
 いい女だったのによう。他人事でも未練があるのか、ナッパが少し口を尖らせる。あんたこの間と言ってることが違うじゃねえか。ラディッツが笑いを含んだ声を上げる。
「いや」
「え?」
「今から発つ」
「―何言ってんだあんた、そんなこと・・」
「始末せねばならんのでな」
「――」
「殺す、のか」
「他に何があると言うんだ」
 ベッドに腰掛けた彼を見下ろして、二人が黙り込んだ。さっきまでの祝杯を上げそうな勢いはすっかり失せている。
「文句がありそうだな」
 彼は大柄な二人を見上げ、交互に鋭い視線を向けた。
「いや・・」
「俺とて面白くはないさ」
 あれは彼のものだ。あれについてのすべては彼が決めるべき問題である。命令されて唯々諾々と従うなど―
 雌伏の時だ。今は結局、フリーザの膝元で生きる以外に道はない。彼は生き延びて、時を掴まねばならないのだ。
 耳の奥に、粘着質な声が甦る。
『永久に、私の傍にいらっしゃい』
 ぎり、とグローブの擦れる音がした。指が食い込むほどにきつく握り締められた彼の拳を目にして、ナッパとラディッツが言葉を失う気配がする。彼等が何を思ったかは、分からない。


 衛星時間の明け方近く、彼は到着した。
 見張りにつけていた件の兵士は、普段どおり彼を迎えた。船から漏れた明りに浮かんだその表情には、わずかな揺らぎさえ見えない。
「御苦労」
 彼は言葉を掛け、兵士の脇を通り過ぎた。途端―
 光線銃が火を噴く音がした。無駄なことを。彼はその一瞬、自分が攻撃されたのだと思った。
 だが振り向いた彼の目に映ったのは、銃口を咥え、後頭部から煙を噴き上げつつ倒れゆく兵士の姿であった。がちゃり。装着していたプロテクターに銃のぶつかる音がして、兵士は地に沈み、それきりぴくりとも動かなくなった。
 何故、だ。
 彼は茫然とその光景をみつめる。
 どう処分するかは決めていなかった。彼を裏切ったことは間違いないが、寝返りを強要してきた相手が悪過ぎたのだとも言えた。彼自身に油断があったことも確かだった。
 何故、生きようとしない?
 彼等によって蹂躙された星で、女達が自死するのを目にしたことは何度かあった。彼女らがそうする理由も大抵の場合は理解できた。だがこれは、彼の理解を超えている。
 ぶすぶすと燻ぶるような音がする。焼け焦げた肉の匂いが辺りに漂う。
 彼は背を向けた。成すべき事が残っている。



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