ともにいるこのひとときを (8)

 1  2  3  4  5  6  7  Gallery  Novels Menu  Back

『あ!ちょっと待って!ここ寄ってっていいでしょ?』
 ブルマが一軒のブティックの前で立ち止まる。ウインドウには色とりどりのランジェリーが並んでおり、まるで花を撒き散らしたようだった。
『・・嫌がらせか?』
『なんでよ?あんた賭けに勝ったのよ?』
『そうだ、俺が勝ったんだぞ。こんな嫌がらせのような真似をされる覚えは』
『あんた好きなの選んでよ』
『な』
『心配しなくても傾向だけ聞いたらあたしがいくつか見繕ってくるわよ。あんた結構黒とか』
『そ、それ以上喋るな!!』
 彼は慌てて口を塞いだ。だが混乱していたのか、塞いでいるのはブルマではなくトランクスの口である。
『・・たいした自信だな、俺が要求するものがそんなも』
『じゃあ何が欲しい?あたしは今日はあんたのどんな要求にも応える覚悟を決めてたん』
『しゃ、しゃ、喋るなと言ったろう!それ以上一言も喋るな!!』
 トランクスの口を掴む手に力が込もる。だが彼は、彼女の口を塞いでいるつもりでいるので、指のあとが白く残る程度にさえ強く押し付けることは無い。
『じゃあどうす』
『黙れと言ってる!!今日のことを口外しなければそれでいい!』
『今日のこと?』
『俺が選んだとか余計なことを抜かさなけりゃそれでいい!』
 言うと彼は、トランクスを抱えて浮き上がった。
『先に戻る!』
『飛んじゃダメだって言ったでしょ!・・ちょっと!あたしを置いてく気!?』
『一人で戻れ!』
『適当に選んじゃうわよー!?』
『貴様ちょっとは人の話を聞けー!!』


黒か・・・
黒だな・・・
黒なんじゃな・・・
「趣味が分かったな。白いドレスに黒の下着。わかりやすいな〜」
「王族が好む定番中の定番じゃないか」
「てか男が好む定番なんじゃ・・」
「王道だね」
「普通過ぎて面白くないな」
どんなだと思ってたんだ?
「なに、どうしたの?なにひそひそ言ってるの?」
「んー?こんなオチかなって予想してた通りだったなあって言ってんのさ」
 夏の午後のカメハウス。照りつける太陽、波の音。のんびりと、だらけた空気が満ちている。


 抱きかかえられ、口を塞がれたまま、トランクスは父と一緒に飛行していた。ふと下を見ると、午後の遅い光に照らされて街がキラキラと輝いている。間も無く夕焼になるだろう空は、少し赤味を帯び始めていた。
 ベジータが気付き、トランクスを離す。彼らは並んで飛行する。何度となく目にしたはずの夕方の景色が、今日は何だか違って見える。
『パパ』
『なんだ』
『王家の秘伝の技って、さっきのあれ?』
『・・・』
『びしっとあいてをだまらせて、びしっと言うんだね』
『・・・まあな』
『でもあれでママちゃんとわかったのかなあ。きいてなかったんじゃない?』
『・・仕上げがまだ済んでないんだ』
『なんだ、そっか』
 彼らは、ゆっくり飛行する。共にいる今のこのひとときを、それぞれの胸に刻みながら。

2005.4.15



 1  2  3  4  5  6  7  Gallery  Novels Menu  Back