ともにいるこのひとときを (6)

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 カフェテラスに戻るブルマ。まだいるかしら、と自分たちが座っていたテーブルを探す。
 いた。彼女はゆっくりと男に近づいた。背後に立つ。男は振向かない。
『・・まだいたんだ』
『・・居ちゃ悪いか』
 ブルマは気付いていなかったが、このとき、トランクスは彼らの席の隣にある垣根の後ろに隠れていた。気配を殺し、様子を伺っている。
 彼女は静かに、元いた席についた。
『トランクスに怒られちゃったわ。人の話は聞かなきゃだめだ、って』
『・・ああ、あいつはある意味おまえよりずっと大人だからな』
『そうよね・・そういうとこ、あるわよね』
 彼女は俯いて、小さく笑った。トランクスは、尊敬する父に”大人”と認められたことが嬉しくて、あやうく気配を露わにしてしまうところだった。
『ね、さっきなんか言いかけてたんでしょ。何だったの?』
『・・・』
『ゴメンてば・・大丈夫、今度はちゃんと聞くわ。あの子にまた怒られちゃうもの』
『・・・』
『ちょっと重い展開になりそうだけど、覚悟は出来てるわ。大丈夫、あたしもっとすごい事だってクリアしてきたんだから。正直浮気は許せないけど、あんた浮気とかそんな気さえ無かったのかもしれないしね。そのまんま王様になってたら妻を複数持つのは義務みたいなもんだったろうし。ま、教育してなかったあたしも悪かったんだって思うことにするわ』
『・・おい』
『でも二度は無いわよ?あんたもちょっとだけどドラマとか映画とか見てんだから、女にとってこれがどういうことか、今なら少しくらい解るでしょ?殺されたって文句なんか言えやしないんだからね!』
『おい』
『彼女とも話し合って決めなきゃならないことだろうけど、クリリン君にはやっぱ黙っておくべきなのかしら。・・バレた時の事考えたら、先に言っておくべきかも。彼女のことすごく愛してるから許してくれるんじゃないかしら・・ううん、逆よね。やっぱ黙っておくべきね。離婚する気でいるんなら知らないけどさ。でもマーロンちゃんの親権とかどうなるのかしら・・ていうか、あんたあの子の親権欲しい?いらないわよね。持ってどうすんだって話だし』
『おい』
『ああー!こうやって冷静に話してるけど、すごくムカついてんのよ、あたし!分かってるの!?今も彼女と続いてるんなら即行別れてよ!当たり前だけど!ああダメダメ、冷静になるのよあたし・・冷静に冷静に・・。ふう・・・・・あと、離婚した場合、あんたクリリン君から慰謝料請求される場合があるからそれ考慮に入れとかないとね。あと、養育費の問題が・・』
 ・・・・・ママ・・ぜんぜんはんせいしてない・・さっきからパパなにか言おうとしてるじゃんか!あれだけ言ったのにい!もおー、やっぱオレがついてなきゃだめなのかよー!
 彼が姿を現そうかどうしようか迷っていたときだった。不意に彼の父が、母の唇に右手の指先を当てて彼女を黙らせた。二人きりならもっと違うやり方があったのだろうが、公衆の面前ではこれが精一杯だったのだろう。
『・・・あ』
『・・お前全然反省しとらんだろう』
 彼女は舌を出して首を竦める。ゴメン、もうあんたが話し終わるまで口を開かないわ。言って口を一文字に結んだ。
『別に話なんぞないがな』
『ええ?』
『・・早速口を開いたな。俺には話すことなんぞ何も無い。お前がはてしのない勘違いをしているということを言おうとしただけだ』
『勘違い?はっ、男はみんなそう言うのよ。だいたいねえ・・』
 言い掛けて睨まれ、早く言っちゃってよ、と再び口を閉じる。
『第一に、俺はあのガキの母親に興味は無い。まあ戦士としてなら注目するに値すると思うが、女としては俺の範疇では無い』
 彼は、口を開きかけた彼女を、まだ黙っていろ、というようにもう一睨みする。
『第二に、俺はあのガキの母親と事に及んだことは無い。従って、あのガキは俺のガキではない。第三に、俺は確かに地球人とは違うが、複数の女が必要だと感じたことはない。お前一人でもこんなに面倒くさいものを、複数抱えたんじゃ、俺の方が参っちまう』
『ベジー』
『黙れ、まだ終わってない。第四に、俺の人生が普通でないとお前は言ったが、それは正しくない。俺と地球人のどちらが普通でないのかなどお前が判断することではない。第五に、多妻はサイヤ人の王の義務ではない。第六に』
『ちょ、ちょちょっとちょっと!もういいわ!・・・十分よ』
 彼女は顔の前に両手を翳してストップを掛けた。彼は、ふん、と鼻を鳴らして口を閉ざす。まだまだ勘違いだらけだが、面倒だから黙ってやる。その目が、そう言っている。
『・・・じゃあなに?全部あたしの誤解だったってことなわけ?』
『そう言ってるだろう』
『それじゃあなんでその場で否定しないのよ?』
『否定する暇があったと思うか。次から次へと捲し立てやがって、口を挟む余地など無かった』
『・・最初どこからだっけか』
『・・・赤はブロンドの定番とか言ってやがった辺りからだろ』
『そう!そうだわ、あんたが「母親のほうなら似合うだろう」とか言い出して』
『事実を歪曲するんじゃない。あの赤い下品な服をガキに、と貴様が馬鹿を抜かすから「ブロンドの定番とか言う年じゃない、母親ならまだ分かるが」と言ったんだ。貴様がそこで、あの女が好みなのかと下らんことを言いやがるから、話を逸らすなと忠告したら、突っかかり始めたんだ』
『そうそう、そうだったわね。あんたよく覚えてるわねえ』
『・・・今さっきの話だろう』
『そうよ、そうだわ。あんたがそこでちゃんと否定してたらこんなことにはならなかったのに』
『否定を強要されて、ああそうですかと聞いてられるか。お前は一体何年俺と一緒にいるんだ』
『・・・そっか・・』
 彼女は拍子抜けしたように呟いて、椅子の背にもたれ掛かった。上目遣いに彼を見て、謝る。
『ゴメン・・』
『・・・ふん』
 男はそっぽを向いた。
『だいたい、あのガキの顔を見りゃわかるだろうが。笑えるくらいあの坊主頭にそっくりだ』
 クリリン君は今は坊主頭じゃないわよ、といいかけて彼女はやめた。その通りだ。全く冷静さを欠いていたとしか思えない。自分は科学者だが、仕事を離れるとそんなところがある、と彼女は認めざるを得なかった。
 それにだ、と彼は続ける。
『俺のガキなら、もっと美しいはずだ』


「待ちな!それは聞き捨てられないよ!」
 18号が椅子を蹴って立ち上がる。
「お、落ち着くんじゃ、18号!」
「そ、そうですよ、あいつきっとナルシストなんですよ!顔を傷つけられたら滅茶苦茶怒るみたいだし!マーロンちゃんは十分可愛いですよ、もう少し大きかったら付き合いたいですもん!」
「何だって!?あんた、手を出したら殺すよ!」
「18号、落ち着けって。あいつはなんだかんだ言っても、ブルマさんの、趣味が悪い訳じゃ無いんだけど勘違いしてる使えないプレゼントからマーロンを救ってくれたんだぜ。それにあの白いドレスをあの子に選んでくれたのだって、あいつだったんだろ」
「・・・まあね」
「それに、あいつの言う通り、あいつの子供だったら凄い美貌だったかもよ」
「・・あんたまで何言ってんだい?」
「未来トランクスを金髪にして、眉間の縦皺を取って、眉を細くして、もっと華奢にして・・って、そんな感じだろ?ちょっと目つきは悪そうだけど、18号、お前に迫る美女じゃないか」
「でも、掛けあわせがうまくいけばそうなるだろうけど、逆毛で、額がMで、眉の太い女の子になるかもしれないんだぜ」
「・・・・・トランクス、お前男だったし、うまくいってよかったな」
「・・・・・あいつ、浮気は出来ん宿命なんじゃな」
「そうっすね・・・見た途端バレますね」



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