ともにいるこのひとときを (7)

 1  2  3  4  5  6  8  Gallery  Novels Menu  Back  Next

『あっ!やだ、買い忘れがあったわ、ちょっと待っててね』
 ベジータをカフェテラスに残して走り去るブルマ。
『・・トランクス、いい加減出てきたらどうだ』
『・・ばれてたんだ・・・』
 垣根の植え込みから顔を出すトランクス。えへへ、と曖昧に笑いながらテーブルに回り込んで来て、自分の席に腰掛ける。
『いつから知ってたの?』
『最初からだ』
『そ、そうなんだ・・』
『・・・・・』
『・・ご、ごめんなさい・・ボク心配で・・』
『・・まあいい。問題なのはガキにまでこんな気を遣わせるブルマだからな。立ち聞きなんぞ上品でないことをしたのは忘れてやる。だがその代わり』
 言って、ずい、とトランクスに顔を近づける。
『な・・なに?』
『・・・今日見聞きしたことは、一切、口外無用だ。お前の知る誰にであろうとな』
 息子の頭を撫でながら、歌うように優しい声で、囁くように、愛撫するように、彼は言った。


「怖い!それはコワい!!」
「でしょうー!?もうオレこわくてもらしそうだったんだから!」
「悟飯がナメック星でそうやって可愛がられたことがあるとか言ってたな・・頭を撫でられて、『んー?なあ?』とか言われて・・」
「ゾォー!」
「その後思いっきり腹に蹴りを食らって、しばらく立てなかったってよ」
「ねえ、みんなぜったいだよ!?ぜえっったいにないしょにしといてよ!?」


『う、うん、わ、わ、わかったよ』
 青くなってコクコクと何度も首を縦にふる息子を見て、ベジータは満足そうに目を細めた。彼の迫力を倍化させるその優しげな微笑に射竦められ、トランクスの背中に戦慄が走る。
 なんとか話を自分から逸らそうと、トランクスは苦し紛れに尋ねた。
『で、でもさ、ママのことも口止めしなきゃいけないんじゃない?』
『そうだな。その辺は抜かりなくやる』
『あのママを口止めすることなんて出来るの?』
『・・あいつは別の方法で黙らせるんだ』
『別の方法って?』
『・・王家の秘伝の方法だ。王妃に裏切らせない為のな』
『王家の秘伝!?カッコイイ!ねえパパ、ボクにも教えてよ!』
『・・・』
『パパ?』
『・・そのうちな』


「え、なに、それ教えていいのか?てか教える気なのか!?
「あいつもなかなかにキワドイことを言うのう」
「?キワドイ?よくわかんないけど、あのママをくちどめできるなんて、さすがはパパだよね!」
「そうだな・・約束させるのは簡単そうだけど、守らせるのはな・・きっと凄い技術なんだな・・」
「王家の秘伝か・・のうトランクス、この隠しカメラを仕掛けてく」
「お師匠様!!」
「武天老師様!!」
「ええい放さんか、意気地の無いやつらめ!体得したいとは思わんのか、その秘技を!
「まったく、武道家の鑑ですよ。まだ新しい技を身に付けたいだなんて」
「お師匠様、よく考えて下さいよ、あいつが五つ位の子供の時に惑星ベジータは無くなってるんですよ。誰がその秘技を奴に伝えるんです?秘伝なんだから王様しか知らないでしょう?間違ってもあの部下だったゴツイやつや悟空の兄貴じゃないでしょう?あいつ一流の冗談ですよ」
「あの男が冗談なんぞ言うと思うか?いや待てよ・・ということはじゃ、やつがオリジナルで凄いということなんじゃないのか!?おお、わしの中の武天老師の血が騒いでおる!トランクス!頼むからこれを仕k」
「騒いでるのはスケベじじいの血でしょう!」
「武天老師の名が泣きますよ・・」


『お待たせ。あら、トランクス帰ってきてたのね』
 戻ってきたブルマはトランクスの頬に後ろからキスして、問題は解決したわ、あんたのお陰よ、と耳打ちした。
『さてと、じゃ、帰りましょうか』
『ママ、にもつは?』
『家送りにしてもらったの。包装に時間掛かりそうだったしね。夜には着くと思うわ。だけど今日は出掛けるの遅くてあんたたちのが何も買えなかったわね。ゴメンね』
 べつにいいよ。それよりさあ、かいわすれってなんだったの。出掛ける時間が問題だった訳じゃないだろうなと思いつつ、カプセルの展開場へと向かう道すがら、トランクスは彼女に尋ねる。
『グラス類よ。この間あんたたちがほとんど割っちゃったでしょ』
 結婚披露宴でよく見るシャンパンタワー。テレビでそれを見たトランクスは、どうしてもそれを自分でもやってみたくなり、家のグラス類を仕舞う食器棚にあった三百あまりのクリスタルグラスを、悟天と一緒に積み上げている途中で粉々にしてしまったのだ。
『ご、ごめんなさい』
『もういいわよ、別に責めてる訳じゃないわ』
 でもああいうのは修練が必要なのよ、それにあんたのものじゃない以上は許可を取ってからやりなさい。最初は50個位からね。彼女はそういって息子の頭に手を置いた。
『・・ちがうわね。修練が必要ってこともないわ。要は集中力よ』
 彼女はベジータがそれを成功させたことがあったのだと思い出した。
 ある夜―それはまだ人造人間来襲前のことだった。夜中に喉が渇いたが、自室の冷蔵庫で目当てのものが見つけられなかった彼は、無人のキッチンで、水だと思い込んで無味無臭のウォッカを飲み干し、出来上がってしまった(まずいことに水を入れるのと同じボトルに入れて同じ場所に置いてあったのだ―不幸中の幸いと言えることに、2Lではなく500MLのものであったが)。良い気分になった彼は、珍しく自分でテレビをつけ、その画面に、後にトランクスが興味を惹かれたのと同じ場面を見出し、息子が取ったのと同じ行動に出たのだ。朝になって家人が発見したのは、電気もテレビもつけっぱなしのリビングで、なみなみとワインを湛え朝日を受けて燦然と輝くグラスのタワーと、ソファの上ですやすや眠るサイヤ人だった。
『あっははははは!目が覚めたときのあんたの反応の可笑しいったら!これはあんたがやったの、って訊いたら、違う、いや違わない、違わないが、でも違う、とか言って、もうしどろもどろになっちゃってんの!自分でもわけわかんなくなっちゃってたのよね』
『・・・余計なことをべらべらと・・』
『でも酔っててもちゃんと成功させる辺りはすごいじゃないの』
『そうだよ、パパすごいよ!』
『何故あんな無意味なことをしたんだか、今でもわからん。アルコールは正常な判断を狂わせる。軍にいたころは殆ど口にしたことが無かった。命取りになるからな』
『でも消化酵素はちゃんとあったみたいね。二日酔いにもならなかったし』
『だいたいあんな紛らわしい場所に紛らわしい容器で置いてあるから悪いんだ』
『仕様が無かったのよ、他に空いてなかったんだから。ちょっと入れ物探してて、酒類用のあれがちょうど良かったんだけど、中途半端に余っちゃっててさ。それであの小さいのに入れ替えたのよ。あんたはいっつも2Lのほうで飲むから大丈夫だと思ったんだもの。なんであの時に限ってあの小さいやつを飲もうと思ったの?』
『俺が2Lで飲むのはトレーニングの後と食事のときだけだぞ。夜中にちょっと喉が渇いたくらいでそんなに飲んだりはせん』
『そうだっけ?でもやっぱ親子よねえ、同じことしてるんだから』


「なんだそれ、オレそんな話全然知らないぞ。オレが出てったあとだったのかな?」
「でも未来トランクスが来てからはちょっとそんな愉快な雰囲気じゃ無かったでしょ。また外泊してた時だったんじゃないんですか」
「そうじゃな、そうに違いあるまい」
「サイテーだね」
「みんな何だよ!用があったのかもしれないじゃないか!なんでそっちに話が行くんだよ!?」
「普段が普段ですしね」
「亀までなんだよ!?お前オレの普段を知ってんのか!?」
「しかしそんな隠し芸があったとは意外じゃったの」
「案外引き出しの多い男なのかもしれませんね」
「無視かよ!?」



 1  2  3  4  5  6  8  Gallery  Novels Menu  Back  Next