ともにいるこのひとときを (5)

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 ブルマは大きな青い瞳をさらに大きく見開いて、トランクスをみつめた。そしてそのふっくらした唇を不自然に歪ませたかと思うと、げらげらと笑い出した。トランクスはぎょっとして母の様子を見守った。おかしくなっちゃったんだろうか。
『マ、ママ』
『ト、トランクス!冗談、あっはっはっはっは、冗談きついわよ!ぶっ!あ、あいつが、あいつがそんなこと言うわけないじゃない!やめてよもう!』
『ママ!』
『ああ、あーおかしい!た、たまんないわ!あんたギャグのセンス、あるわ!』
 腹を抱えて笑い転げる母を、彼は呆然とみつめた。ひとしきり笑うと、彼女はすっきりしたように彼に告げる。
『あーあ、おかしかった・・でも、あんたの気持ちはよく分かったわ』
『え?』
『あんたはあたしたちを離れさせないように、ってそんなこと言ってくれたんでしょ。大丈夫よ、ちょっと困った状況だけど、今すぐどうこうなんて気持ちは無いんだから』
『ち、ちが・・』
『まあ、あんたにそこまで言わせるなんて、あいつも愛されてるのねえ』
『ママ!』
『ああほら、アイス溶けてるわよ』
『ちゃんときいてよ!』
 彼は思わず大声をあげていた。その拍子に彼はジェラートを握りつぶし、地面に落としてしまった。溶けたそれで水色に染まった手をきれいにさせるため、自分の膝に置いていた彼のハンカチを渡そうとしていたブルマは、その大声と、それに伴いびりびりと振動した空気に驚いて、びくっと身体を震わせ、自分を守るように少し身を縮めた。
『ご、ごめん、ママ・・』
 その様子に、はっと我に返る。母を怖がらせたかもしれない。自分はダメだ、こんなことくらいでこんなに怒鳴ったりして。彼は、父が母を怖がらせたところなど見たことがないのだということに気付き、余計に自己嫌悪した。
『ごめんね・・だいじょうぶ?』
 彼は母の顔を覗き込んだ。ああ、びっくりした。そう言いながら彼女は片目を開ける。そこに恐怖の色は無かった。広場にいた人々が、彼等の方を見て何事かと囁き交わしている。
『もう、なんなの?いきなり大声出して。ビックリするじゃないの』
『うん・・でもママもちゃんと人のはなしをきかなきゃだめだよ。・・さっきだって、パパがなにか言おうとしてもぜんぜんきかなかったじゃない』
『なにか言おうとしてたの?あいつが?』
『ほら、きづいてもいないんでしょ。そんなんじゃ、だいじなことをききもらしちゃうかもしれないよ』
 トランクスは母の手から自分のハンカチを受け取り、手を拭いながら、小さな子供を諭すように語りかけた。
『さっきのは、ほんとにパパが言ったことなんだよ。そのときは、なんのことだかイマイチよくわからなかったんだけど。あとでパパが死んじゃったってきいたとき、ああ、パパはこれをかくごしてボクにあんなこといったんだな、っておもったんだ。パパにかわってママをまもれ、ってことだったんだな、って』
『・・トランクス・・・』
『おとなのはなしってボクにはわかんないよ。でもパパはママのことすごくだいじにおもってるんだ。ボクわかるんだよ、気のかんじなんかで。ママにはたぶんわからないことなんかも、ボクかんじとれてるとおもうんだ』
『・・・・・』
『ママ、もう一回パパとはなしてきなよ。こんどはちゃんと、パパの言おうとしてることもきいてあげてさ』
『・・冷静に話せるかしら。ていうか冷静に話したら、フランス映画みたいなディープで鬱陶しい展開になりそうなんだけど・・』
『だいじょうぶだよ。きっと。ね?』
『・・・そうね。こんなとこで考えてても仕方ないわね。まずは、あいつが何を言おうとしてたか聞き出さなきゃね』
『がんばって』
 うん、と彼女は腰を上げる。じゃ、後でね。と友人のように手を上げて戻って行こうとする彼女に、彼はあることを思い出し、急いで声を掛ける。
『ママ!』
『んー?』
『さっきのはなし・・パパの言ったこと、しらないふりしててよね!』
『・・・うふふ、分かってるわよ!』
 任せて、と彼女はOKサインを作り、再び歩き出す。父の性格からして、母にあの話を知られるのは辛いだろう。それでも敢えて話したことを彼は後悔してはいなかったが、このカードを母に切らせるにはあまりに忍びないと感じた。まあ、彼女はその辺り心得た人ではあったが。


「おまえ、親孝行なやつだなあ」
「てか気が利きすぎじゃないか?お前ホントに子供なのか?」
「親を諭すなぞ、なかなか出来ることではないぞ」
「サイヤ人は早熟だみたいなこと言ってたよな。関係あんのかな」
「体はそんなに大きいようには思わないけど・・」
そりゃ遺伝じゃろ



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