ともにいるこのひとときを (2)

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『パパ、えらんでこれるかなあ』
『あたしの勝ちね』
『かちまけってなにできめるの?』
『もちろん、選んでこれたらあいつの勝ち、選べなきゃあたしの勝ち。でもあいつは勝てないわ』
『なんで?』
『選べないからよ。根が真面目だから適当になんて出来ない。かといって、女の服のことなんて脱がせ易いかそうでないかくらいのことしか分かんないのよ。選べる訳ないわ』
『マ、ママ』
『地球中飛び回ったところで見つかりゃしないわよ。あいつに良し悪しがわかるのなんて、戦闘服だけなんだから』
『ママ!』
『ほほほほほ、帰ってきたら今度は何を約束させてやろうかしらねえ』
『ママってば!うしろ!パパかえってきてるよ!』


「あいつ、脱がせ易いかどうかは分かるんだな」
「てか、破らないでちゃんと脱がせるということ自体驚きだな」
「・・あんたたち、そこにしか反応できないのかい」
「・・子供の前なんじゃぞ」


『・・俺にとっちゃそれだけ分かりゃ十分だ』
『あら、やけに早かったじゃない。潔く諦めたって訳ね』
『なんで諦める必要がある。それに貴様、ガキの前で下品なことを言うんじゃない』
『え?あぁあ、ハハハ。大丈夫よ、まだ分かりゃしないわよ』
『何言ってやがる。こいつは頭も身体も半分はサイヤ人なんだぞ。のんびり成長してたんじゃサイヤ人はガキのうちに死んじまう。どんなに幼く見えようとも、純粋な地球人とは違うんだ』
『・・トランクス、あんたママの言ったこと分かった?』
『ママのいったこと?わかったよ?』
『・・ホントに?』
『パパが、女の子のせんとうふくをさがしてもみつけられない、ってことでしょ』


「ナイスボケだ!トランクス」
「でも『それだけわかりゃ十分』の『それだけ』ってどっちのことかな
「なに?オレ、ボケてなんかいないよ」
「そのワザとらしい言い方は止しな」
「最近の子供は怖いのう・・」
「ワザとらしい?こわい?・・なんのこと?」


『そ、そうなのよ。戦闘服はママにしか作れないんだものね』
『・・世渡りが上手いな、トランクス。誰に似たんだ』
『え?なに?パパなにいってるの』
『それより、選んできたの?まさかね』
『来い』
『ええ!?ホントに?』
『パパ・・』
 南に向かって歩くベジータに、彼らは驚きを隠さないまま従う。三ブロックほど進んだところで彼は立ち止まった。
『これだ』
 彼が顎で指し示す方向には、子供用の黄色と黄緑のトレーニングウエアを着た二体のマネキンが、ショウウィンドウの中でポーズを取っていた。
『・・あんた、女の子のバースデープレゼントなのよ?これじゃ・・』
『ちがう、こっちだ』
 彼はその南隣のウインドウを指差した。黒いドレススーツを着た大人のマネキンの横に、真っ白な袖なしワンピースを纏った子供のマネキンが並んでいる。その頭部には同じく純白の帽子、足元にはリボンをあしらった白い小さな靴を着けていた。
『・・・これ?』
『そうだ』
『・・・可愛いけど・・地味じゃない?』
『貴様の選ぶものが下品すぎるだけだ。手にとって見てみろ』
 そう言って、彼は店の中に入っていく。いらっしゃいませ、と慇懃に頭を下げるマヌカンに、その白いドレスと同じものを出すように指示する。
『当店で扱うものはすべて一点ものでございまして・・お待ち下さい』
 マヌカンはウインドウの中に入り、丁寧にそのワンピースを脱がせると、彼らの目の前に差し出した。
『わあ・・!』
 ブルマは感嘆の声を上げてそれを受け取る。ウインドウの外からはよく分からなかったが、張りのあるシルクタフタで作られたそれには、全体に何とも言えない上品な艶があり、生地が擦れ合うと、しゅる、と耳良い音を立てた。襟ぐりと袖口、それに緩やかに広がるふんわりとしたスカートの裾に、同色の絹糸で小さな刺繍が施されている。
『綺麗・・』
 目を細めて溜息混じりに呟いた彼女を、心なしか満足気に見遣り、彼はふんと鼻を鳴らす。
『ちょっと、トランクスの前でそのふんってのはやめてって言ったでしょ』
『申し分なかろうが』
『ええ・・』
 でも、と彼女は言い澱んだ。
『でも、なんだ』
『これも素敵だけど・・あっちも捨てがたいのよねえ』
『あのガキが一体どこであんなものを着るというんだ』
『そりゃパーティーとか・・』
『いつそんな機会がある。お前とは違うんだぞ』
『そうなんだけど・・』
『合理的に考えてみろ。お前の選んだものはほとんど100%身に着ける機会が無いままサイズの合わなくなる可能性が高い。ああいうものは、特定の場合以外は、失笑を買って終わるか人種を間違えられるのがオチだ。子供の場合冗談で済むこともあるかもしれんがな。お前はあのガキに恥を掻かせたい訳じゃあるまい?』
『ええ・・もちろんよ』
『こいつでならどんな場所に出ても問題ない。季節も、場所柄も選ばない。違うか』
『そう、そうね・・でもさ、ちょっと大っきくない?ね、サイズは・・』
『ガキはすぐに大きくなる。たとえ地球人でもな。今現在身体に合うものではむしろ不都合なんじゃないのか』
『・・そうねえ・・・ね、同じもので赤いのは無いの?』
『申し訳ございません、一点ものでございますので、サイズもお色もこちらのものしか・・』
『赤にこだわりがあるのか』
『そ、そういうわけじゃないんだけど・・やっぱブロンドの女には赤が・・』
 彼女は、自分の『赤はブロンドの女の定番』という台詞が気に入っていたらしく、この言葉とともに赤いドレスを贈りたいのだという自らのプロデュース精神を告白した。彼は再び鼻を鳴らして、言った。
『本末転倒だ。お前は名プロデューサーとは言えんな』
『どこがひっくり返ってるのよ』
『お前は何の為にあのガキにものをやろうとしてるんだ。自分の為なのか?』
『・・・・・』
『まあ別に何でも構わんさ。俺ならもっと気の利いた文句をつけるがな』
『・・・どんな?』
『白は美女の永遠の定番』


「トランクス!お前話を捏造してるだろ!?」
「び、美女・・びじょ・・ビジョ・・ううーん」
「あっ!お師匠様!しっかりして下さい!」
「ネツゾウってなに?」
「ほとんど口説き文句だな・・」
「あいつ結構分かってんじゃないか」
「18号さんが親バカになってる・・」
「これって、そんなにびっくりするようなことばなの?オレよくわかんないよ」



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