ときはめぐる ひとはいきる (7)

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「なあトランクス、これはママが選んだんじゃないよな?」
 大人達が話しているのを、曖昧な笑みを浮かべ、複雑な顔をして眺めていたトランクスは、突然のヤムチャの問いかけに飛び上がらんばかりに反応し、びくっ、と体を強張らせた。動きを止めて自分の答えを待つ大人達の視線に、彼はぎくしゃくと口を開く。
「ど、どうして?そんなこと、ないよ。ママが、えらんだんだ」
 それだけ言って、彼は目を逸らしてしまった。ヤムチャは苦笑する。
「口止めされてるんだろう?大丈夫だ、誰にも言わないから」
 オレは自分の勘が衰えてないか確かめたいだけなんだ。言ってヤムチャはトランクスを促す。彼は大人達一人ひとりに視線を移して行き、観念したように、わかったよ、と俯く。
「それ、ホントはパパがえらんだんだ」
「ええ!?」
 再び視線を上げたトランクスの告白に、ヤムチャと子供たちを除く全員が叫ぶ。
「このあいだ、かいものにいったんだ。パパとママと、三人で」
 驚愕のあまり凍りつく面々を前に、トランクスは続ける。
「なんか、ママとかけをして、まけちゃったらしくて。ときどきあるんだ、そういうこと。ものすごーくいやそうだったけど、やくそくだから、って。そんなにいやなら、かけになんかのらなきゃいいとおもうんだけどさ。いっつもまけるんだし」
「ベジータが買い物・・」
「親子でショッピング・・」
「見たいような、そうでないような・・・」
「ママが、おきにいりのブティックで、赤いスリップドレスとかをえらんでたんだけど、パパが、おまえのえらぶものはげひんすぎる、きてみろ、ってべつのみせにママをひっぱっていって・・」
「この一式を選んだ、って訳か」
「かなりモメてたけどね。めずらしくパパががんばったんだ。それはだめだ、これにしろ、って」
「めずらしくとか言われてるよ・・」
「よっぽど負けっぱなしなんすね・・」
 そのとき、ベジータの胸に去来したものは何であったろうか。彼自身が、まだこの星での勝手が分からないときに体験したファッションショーのような緊迫した毎日が、フラッシュバックしてでも来たのだろうか。根が真面目な男のこと、二度と犠牲者を出してはならないという強い責任感から、妻の暴走を止めるために身体を張ったのかもしれない。
「ふうん・・ま、何にしてもモノはいいよ。あいつの顔からは想像できないセンスだけどさ。赤いスリップなんて、亀じいさんを喜ばせるだけだからね」
 18号は、視線で人が殺せそうなベジータの顔を思い浮かべ、手の中のドレスに視線を落とす。どうしても結びつかない。
「待たんかっ!いくらわしでも幼児のそんな姿にまで反応せんわ!」
「スリップじゃないよ、ちゃんとしたパーティードレスだよ」
「余計に使い道無いさ。とにかく、あいつにも礼を言っといておくれよ」
「むりだよお、くちどめされてんのに。あーあ、パパにばれたらオレころされちゃうよ・・口のかるいやつめ、かくごはいいか・・とかいわれてさあ!やだよう・・オレこわい!」
「だいじょうぶだよトランクスくん、そのときはぼくとフュージョンしよう」
 頭を抱えるトランクスに、悟天が呑気な提案をする。
「ははっ、そうだ、それがいい。ゴテンクスには勝てないだろ」
「むせきにんなこといわないでよクリリンさん!ぜったいないしょだからね!」
「大丈夫だ、みんな心得てる」
 ヤムチャの言葉にも、疑わしそうな目の色を薄めない。よっぽどきつく口止めされたんだな。そのときの親子の遣り取りを想像して、笑いがこみあげてくる。
「でも、ヤムチャさん、なんで分かったんすか。ベジータが選んだ、って」
「そうだ、そういえばそうだよ、なんでわかったの?」
 ああ、それは、と苦労して笑いを引っ込めながら彼は思考を切り替える。
「オレの持ってきたのと系統が一致してたろう。それでひらめいたんだ」
「?・・どういうことすか?」
「ブルマ、って共通点があるだろ、ベジータとオレには」
「・・なるほど!趣味の似通ったとこがあってもおかしくないってことすね」
「あいつが聞きゃ怒るだろうけどな。オレの勘もまだ捨てたもんじゃない、ってことかもな」
「でもどれもこれもブルマさんのイメージからは程遠いって感じですけど」
「ふふ、あいつブルマの格好見て、よく『下品だ』って顔顰めてたよ」
 いいながら、さて、と彼は立ち上がる。帰るんすか、というクリリンの問いかけに、6時に都で約束があるんだ、と答えてジェットフライヤーのカプセルを取り出す。ヤムチャの話がいまいち理解出来ないのか首を傾げていたトランクスは、その言葉に時計を振返る。
「えっ、いまなんじ?・・げえっ、もうこんなじかんじゃん!」
「ええーっ、どうしよう!ぼく、もんげんごじなのに!おかあさんにおこられちゃうよ!」
「オレはパパだよ!いこうぜ悟天!めいっぱいとばせばまにあうかも!」
「うん!」
 じゃあさよなら、と言い残し、彼らは飛び立った。トランクスの、ぜったいないしょだからね!という叫びと、一陣の強風が後に残った。



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