ときはめぐる ひとはいきる (1)

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 常夏の島にも季節は巡って来るらしい。
 といっても、ずっとそこに住み続けている人間ででもなければまず気付かない。砂のはねかえす日差しの色が変わった、とか、陽に干した甲羅が乾く時の匂いが違う、とか。そんなことに気を配ることのできる、時間と余裕がなければ。

「飲み物出したよ、要るんなら来な」
 一周するのに一分とかからないだろう小さな島に、18号の声が響く。プラチナブロンドは焼けた肌によく似合うんだ。春の、少しは優しいらしい日差しに、それでも目を細めながら、彼女は焼いても黒くならない自分の肌をうらめしそうに眺め、不満を漏らした。
「焼きたくなくても黒くなっちゃう女の人だって多いんだ、贅沢言うとバチあたるぜ」
 クリリンはそう言って彼女を宥(なだ)めた。それに、と付け加えることも忘れない。もったいないよ、真っ白で、こんなに綺麗なのに。ばか、と彼女は少し顔を赤らめ、そっぽを向く。見るものを恍然とさせるその横顔に、彼女の夫はしばし見惚れる。
「・・・またいちゃついとるのか」
 ああ、あほらし。毎日毎日よくやるのう。デッキチェアで亀仙人は溜息をつく。
「でも18号さんはホントにお美しいですからね」
 隣のチェアで亀が満足そうにつぶやく。春はいいですねえ、甲羅の乾き方がゆっくりしてて。夏はすぐカラカラになっちゃうんですよね。肌に良くないんですよ、あれ。
 水際に砂で秘密基地を築いていたトランクスと悟天は、18号の声に、自分の身長程もある大きなスコップとシャベルを放り出し、ハウスに入って来る。
「よかったあ、ちょうどのどがかわいてたんだ」
 ぼくもぼくも、と悟天が後に続く。マーロンが昼寝してるんだ、騒ぐんじゃないよ。自分の横を犬の子のようにじゃれあいながらすり抜ける二人に、18号は娘を起こさないようにと念を押した。うん、と返事してテーブルの上の飲み物に近づく子供たちに、手を洗いなよ、ともう一声掛ける。
「18号もすっかりお母さんが板に付いてきたな」
 ニュースを見ていたヤムチャが笑う。馬鹿言うんじゃないよ。切り返して彼女は彼を睨んだ。禁句なんすよ、それ。隣に座りながらクリリンが小声で言う。
「女の人って色々すよね、チチさんみたくお母さんおかあさんして当たり前っぽい人もいるし」
「男だってそうだろ、悟空みたく見るからにいいお父さんな感じの奴もいるけど、ベジータみたいなのもいるし。お前はホント、やさしいおっさんて感じになったよな」
 小生意気で抜け目の無い餓鬼だったのになあ。ヤムチャは昔を思い出しながらクリリンを眺めて目を細めた。18号は女ベジータってとこさ。ヤムチャの耳打ちに、あそこまで屈折しちゃいませんけどね、とクリリンが忍び笑う。聞こえてるよ。デッキチェアの二人分のアイスコーヒーをトレーに乗せ、背後を通り過ぎてゆく18号の低い声に、二人は首をすくめた。
「ヤムチャさんは変わりませんよね、永遠のお兄さんてとこですよ」
 変わらないのがいいとも言えないとこあるけどな。ヤムチャは少し複雑な気持ちになった。俺も落ち着きたいんだけどな。なんか、縁無いんだよなあ。頭の後ろで手を組み、ソファの背に体を預けながら言い、ふっとためいきをつく。モテ過ぎなんすよ、とクリリンが笑った。



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