ときはめぐる ひとはいきる (6)

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 窓から差し込む、少し黄味を濃くした日差しに、トランクスは目を覚ました。伸びをして立ち上がりかけ、自分が腹にバスタオルを掛けただけの姿であることを思い出し、慌てて座り直す。
 乾いてるよ。ほら、と18号は日差しの匂いのする服を投げて寄越した。彼は、ありがとう、と礼を言い、急いでそれらを身に着ける。身支度の終わるころ、悟天が目を覚ました。
「これ、礼を言っといておくれよ」
 と18号が喜色を滲ませて言った。彼らが眠っている間に開いたのだろう、トランクスが持ってきたマーロンのバースデープレゼントの、大中小のロイヤルブルーの箱が床に広がっている。
 そうだ、オレ、あれをとどけるようにいわれてここにきたんだっけ。
「ああ、マーロンも俺たちも喜んでたって伝えてくれよ」
 クリリンも破顔して言う。あんたも頼むよ。まだ寝ぼけ眼でぼんやりしている悟天に、18号が声を掛ける。
「ブルマは服の趣味はいいね。男の趣味は疑うけど」
 一番大きな箱から、大事そうに中身を手に取りながら、18号は目を細めた。真っ白なノースリーブのワンピース。動きに合わせて、張りのある上質なタフタシルクが上品な光沢を放つ。ふんわりと裾にかけて控えめに広がるスカート。身にまとえば、どんなにお転婆な女の子もお姫様に変身を遂げることだろう。残り二つの箱には同じく真っ白な靴と帽子。
「よくぞ女に生まれけり、みたいな三つ揃いだな」
 オレもブルマの男だったことがあるんだけど、という言葉を敢えて飲み込み、ヤムチャは箱を覗き込む。格調高い香りのするそれらに、しかし首を傾げる。
「でもあいつ、自分の服の趣味は悪くないと思うんだけど、人のを選ばせたら最悪、みたいなパターンが多かったんだけどな」
 彼は、ベジータが、カプセルコーポで共に起居していたころに着せられていた普段着を思い出しながら言った。
 ショッキングピンクのシャツに、蛍光イエローのパンツ。背中や胸に「BAD MAN」だの「天上天下唯我独尊」だの「恋愛至上主義」だの「一生鬼畜」だのと、どう考えても彼をからかっているとしか思えないロゴが入ったトップス。あのころは、彼はまだ地球の文字を習得してはいなかったようだが、真実が露見したとき流血の大惨事になるのでは、と見るたびにヒヤヒヤしたものだ。それはどう見てもアロハじゃないのかと疑いたくなる柄のジャケット。一面真紅のバラがプリントされたサテンシルクのフリルシャツ。夜の歓楽街に出勤する男のような派手なスーツ。当時は、一体どこで見つけて来るのだろうと首を捻ったものだったが、大部分は特注品だったに違いない。
 ベジータは、最初こそ無駄な抵抗をしたものの、「すごい!やっぱりあたしってセンスいいわ!似合ってるわ、素敵よ!」というブルマの自慢、いや褒め言葉に、あきらめたのか満更でもなかったのかそれともヤケになっていたのか、完璧にそれらを着こなしてみせていた。遊ばれてたまるか、という気概だったのかもしれない。そしてそれがまた、ヤムチャの目から見ても恐ろしいほど似合っている。朝、ベジータがダイニングに現れる度に、あれは似合っていていいものなんだろうかと密かに考え込んだものだった。
 だが、未来からトランクスがやって来た日を境に、それまで少しだけ打ち解けた様子を見せることもあったベジータの全身に、びりびりとした殺気が再び漲るようになり、彼らのそんな日常は終ってしまった。
「女の子のものを選ぶときはやっぱり違うのかな」
 呟きながら、そういうことなんだろうな、と彼は無理矢理自分を納得させる。
「ヤムチャさんも、ありがとうございます。これ、この服とぴったりですよ。合わせたみたいだ」
 クリリンはヤムチャの贈り物のバッグと手袋を手に、軽く会釈する。造花の白い小さなカラーをあしらった可愛らしいベージュのバッグと白いレースの手袋は、帽子を被り、ワンピースを体にあてがわれて、ちょっと恥ずかしそうだが御満悦のマーロンに良く似合っていて、特に子供に思い入れがあるわけではないヤムチャでさえ、目尻が下がるのを禁じえなかった。
 そのとき。
 あ。
 彼はある可能性に気付いた。



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