罪無き罪 (6)

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「いやー、絞られたなあ」
 昼近くなって、彼らはやっと解放された。チチの、オラは暫く実家へ戻ってるだ!という捨て台詞と共に。悟飯も彼女と一緒に連れて行かれてしまった。ジェットフライヤーの窓から泣きそうな顔を覗かせながら。
「悟飯のやつ、修行どうすっかなあ」
「うまく抜け出して来るだろう―いやそんな話じゃない!」
 二人きりになった食卓で、ピッコロは牙をむいて叫んだ。
「貴様、俺は覗き見変態男のレッテルを貼られたんだぞ!」
 自分はそんなものに全く興味は無いのに。彼は屈辱で眩暈がしそうだった。
「オラだってそうさ、『オラというものがありながら情けねえ!』って泣かれちまったんだぞ」
 悟空の、朝の電話の対応のまずさにチチは完全に誤解してしまった。彼らがブルマの寝室を覗き見してきたのだと思い込んでしまったらしい(事実だが)。本当の事を言う訳にも行かず悟空がへどもどしているのを見て、彼女の思い込みはエスカレートしてゆく。その上、どうせオラは洗濯板だ、ブルマさみてえにセクシーじゃねえ、だどもこりゃあんまりでねえか!と叫んだチチに、悟空が、そりゃブルマはムチムチだけど、おめえだって筋肉質でいい体してっじゃねえか、と余計な事を言って追い打ちをかけてしまった。
「貴様はなんでそう余計なことを言うんだ!」
「そんなこと言ったってよ・・そんじゃ何て言や良かったんだ?」
「俺が知るか!」
「それにしてもチチのやつ、なんであんな怒ってたんだ?オラそんなわりいことしたんか?」
「そこからか!?」
 いや考えてみれば、昨日のようなケースはいざ知らず、この男にこの種の事を理解する能力があろうはずがないのだ。単性種である自分の方がいくらかマシかもしれない。
「・・んとに、女って訳わかんねえ」
 机に顎を乗せ、情けない声を漏らす悟空を見下ろし、彼は片頬を上げて笑う。
「へっ、昨日は俺をさんざんバカにしてやがった貴様が、いいザマだな」
「別にバカになんかしてねえだろ。なあピッコロ、どうすりゃいいかなあ」
「知らんな。貴様の妻のことだ。貴様で何とかしろ」
 そう言って、彼は立ち上がった。そんなあ、頼むよ。拝むような悟空の声を背中に聞きながら玄関を開こうとした、そのとき。
 大きな気が近付くのを感じ、彼らはハッと顔を見合わせる。
「やべえ!ベジータだ!」
「しまった!奴の性格を考慮に入れていなかった!」
 女に何と言われようと、奴は必ず自分で確認に来る。何故そう考えなかったのか。
「どうするんだ!どう言い訳する!今朝女にしたようなのじゃ奴には通用せんぞ!」
「お・・オラちょっくら用を思い出した!界王さまんとこ行ってくる!」
「ちょ、貴様!」
 あとはたのむな。その声と共に、悟空の姿は掻き消える。くそ、なんで俺が。それを声に出す暇も無く、玄関が乱暴に開かれた。午前の遅い光を背に、ベジータが姿を現す。今朝早く見た、あのちょっとあどけないような表情は、今は影も無かった。音のしそうなほど視線を尖らせ、彼は低く問う。
「カカロットはどこへ消えた」



 この後の彼らの遣り取りについて、ピッコロは神様と一体となった今も固く口を閉ざしている。ただ、デンデにはこっそりこう漏らしていた、とMr.ポポの神殿日誌にある。
「後ろ暗いとはああいうことを言うのだ」

2005.7.4



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