innocent (5)

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 しばらく不気味に沈黙していた人造人間が、西の都の北東方向にある半島の村落に出現したというニュースが流れたのは、彼の傷の完治からひと月ほど後、十月のことだった。
 女は最近、王に進言した計画のために動き回っていた。地上の人間たちを地下へ隠そうというのだ。そのために必要な技術を開発すべく、ラボに篭りきりだった。
 無駄だ、とは思わなかった。
 人造人間達は、退屈している。彼らを何度も生きたまま置き去りにしたのも、飽きるまでは玩具にしようという思惑があるからだ。今すぐ地球人を皆殺しにしようとはしないだろう。であれば、その退屈しのぎの間に、悟飯が戦士として充分な成長を遂げる可能性はあった。そのための時間を稼ぐ。引き伸ばす。その意味で、彼女たちのしていることには十分意義がある、と彼には思えた。
 何のためだ。
 彼は考える。自分の中だけで世界が完結しているはずの彼にとって、自分の死後の悟飯の成長に何の意味があるのか。
 何のために彼が成長すればいいと自分は思っているのだろう。むろん打倒人造人間を期しての事だが、そもそも何故自分はそんなことを考えているのか。地球人のことを慮って(おもんぱかって)いるのではない。全滅することを考えても、彼には何の感慨も湧かない。サイヤ人の血がこの世から失せることを恐れているわけでもない。彼にとって、そんなことはどうでもよかった。
 一人、死んだ姿を想像したくない人物が彼の脳裏に浮かんだ。
 女か。
 あれを生かしたいと自分は思っているのだ。
 では、女が死なないことに何のメリットがあるのだろう。自分の生きているうちならともかく、死んだ後に。いや、それどころか―
 あれが望むのなら殺してやってもいい。
 とさえ、彼は考えている。その位の温情はある。苦しみの無い方法で、女自身も気付かないうちに命を絶ってやろう。だが、絶望し、殺してくれと自分に頼む彼女の姿など想像出来ない。
 厚かましい女だからな。
 どんな状況だろうと、生きたいと望み、逞しく、しぶとく、生き残ることだろう。あれがそう望むのなら、生かしたいという気がした。
 つまるところ、彼は女がしたいようにすることを望んでいるのだった。女がそうしている姿を見るのが、彼は好きだったのだ。悟飯が生き残り、戦士として成長することは、その一助となる。
 なるほどな。
 何故自分がそれが好きなのか、そこまでは考えなかった。自分の希望していることが解って、彼は満足した。
 遠くで、赤ん坊の泣き声がした。女の息子が泣いているのだ。
 息子―
 彼は初めて、自分の血を引く子供のことを考えた。彼のもうけた、おそらくは最初の、そして最後になるだろう子供。
 あれは、強くなる。
 この自分の子なのだから当然の事だが、それを抜きにして、彼はその本能で感じ取っていた。戦士としてどれほどの成長を遂げるか見たいような気もしたが、出来ない相談だった。
 あれも生き延びるといい、と思った。女はあれを可愛がっている。死んだら、泣くだろう。あの女にそんな姿は似合わない。というより、彼自身がそれを好まない。

 その夜、彼は女を抱いた。
 おそらく明日、早ければ明け方にも、人造人間は動き始める。今は民家の一つを占拠して動きを見せていないようだが、そろそろ飽きてくる頃だ。そしてあれらが動き始めたとき、戦いは始まる。
 これが最後になるだろう、と彼は思っていた。あれらは今度こそ、自分に止めを刺すに違いない。飽きてきているのだ。彼にはそれが感じ取れた。
 女はこの夜もラボに篭っていたが、彼は彼女をそこから引っ張り出した。シャワーを使いたいという懇願を無視し、その裸形を抱きすくめる。余計な香りに邪魔されない分、彼女の体自身の香りが凝って立ち昇り、彼を刺激した。恥ずかしさに悶える姿も、彼を煽った。彼は女が気を失うまで、繰り返し攻めた。ぐったりと力を失った女の身体を抱きしめ、あらゆる部分に丁寧に口付け、強く吸った。白く柔らかな肌に、彼の刻印が散った。



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