二十八度目の満月 (2)

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「ねえブルマさん、ベジータちゃんはまだお戻りじゃないの?」
 重力室から戻り、キッチンでココアを作っていた彼女に、母親が声を掛けた。
「さあね。戻ってたら冷蔵庫が空になってるはずだから、まだなんじゃないの」
「そう・・新年も御一緒できなかったわね」
 夫人はほんとうに残念そうだった。
「ねえかあさん、あいつの何がそんなに気に入ってるの?」
 彼女は呆れて母親に尋ねる。母の男好きは今に始まったことではないが、彼への思い入れには特別なものがあるようだ。
「あら、だって可愛いんですもの」
「・・・」
 母の独特の感性に絶句した。だが、食事中の様子はそう言えなくもないかもしれない。
「それに、セクシーで素敵だわ」
 それはあながち的外れでもないと思った。その男としては小柄な身体全体から、一瞬だが、息を飲むような色香が漂う事があるのだ。あれは、何なのだろう。
 肉体の美しさということであれば、彼女の仲間のほとんどが少なからず持ちあわせている。だが彼の香りは、実に独特だった。常にその身に漂わせる緊張感が、彼にそれを与えているのか。
「ブルマさんだって、ベジータちゃんが好きでしょう?」
「―別に。特に嫌いってこともないけど」
 目を合わせるだけで相手の息の根を止めそうな、凄味を帯びた顔が浮かぶ。
「あらそうなの?ここのところブルマさんが寂しそうなのは、ベジータちゃんがいないからだと思ってたんだけど」
「寂しそう?」
 どの辺が、と追求したかったが、やめた。訊いてはまずいような気がした。
「今度の恋のお相手はベジータちゃんなんでしょう?」
「恋?」
「ブルマさん、恋をしているんでしょう?」
「―そう見えるの?」
「違うの?」
 何をどう曲解してそういう結論に至ったのだろう。
 まあ、ママはお花だとかお菓子だとか恋愛だとか、そういうの大好きだものね。
 母が自分をからかっている訳ではないことは解っていた。彼女は浮世離れしてはいるが、いつでも真剣だ。揶揄の類を口にすることは無い。だから尚びっくりさせられるのだが。
「違うわよ、残念だけど」
「まあ、ホントに?」
 当たり前だ。そんなことは有り得ない―はずだ。
「じゃあママ、ベジータちゃんをデートに誘ってみようかしら」
「いいんじゃない。あいつとデートして面白いとは思えないけど」
 それ以前の問題だ。しかしココアを一口含んで、彼女は母に調子を合わせた。



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