二十八度目の満月 (1)

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 新しい重力室は一昨日完成していた。
 従来のものは、ここを使用するベジータが超化して以来、根本的な強度不足により故障に次ぐ故障を重ね、十日ばかり前ついに崩壊してしまった。そのため新設と相成った訳だが、実は設計と施工の準備はこの崩壊以前から進められていた。ブルマは、彼の超化を知る以前からこの強度不足について気がついていたのである。故障が続く理由については、彼の通常のパワーアップによるものだと考えていたため、内壁の材質とその連結方法の変更、そして重力発生装置の設置位置の変更の為の準備が進められていただけだったが、再建するにしても仕様が変わるのは主としてこの部分であったので、再考が必要ではあったものの、方向性には問題が無かった。
 この再考に三日を要したが、その間に建材の運び入れ等が済み、基礎部分の工事が行われていたので、作業は実にスムーズに進んだ。内壁の連結方法の大幅変更により建材の一部については再搬入を要したが、設計が完成すれば後は組み立てるだけであったので、その二日後にはほぼ出来上がった。そしてブルマ自身の手により、さらに二日をかけて細かい調整が行われ、彼女の新作は完成した。故障箇所を特定し、その後その場所の壁や床をはがして作業を行い、その後また床材や壁材を被せなおすという面倒な行程が無いため、修繕よりもずっと早かった。

 だが、肝心のベジータがいなかった。
 彼は、ここ一週間以上カプセル・コーポでは目撃されていない。重力室が当分使用出来ないと見て、野外トレーニングに出ているのだろう。彼女は、彼がいつ帰ってきても良いように、ゆっくり過ごす予定だった年末年始を働き通して完成を急いだ。
 まったく、誰の為にやってると思ってんのかしら。
 この新しい建造物を目にしても、礼を言うどころか、労いの言葉一つ掛ける事はないであろう男の不機嫌そうな顔を思い浮かべ、彼女は腹を立てた。礼や労いが無いだろうという事にではない。十日近くも姿を見せないことにである。自分で注文しておいて、姿を消したまま何の音沙汰もないとはどういうことなのか。といって、彼がたとえば三日前にここに戻ったとしても、彼女はやっぱり腹を立てていたに違いないのだ。完成してから披露しようと思っていたのに、と。

 更に十日が過ぎたが、男は戻って来なかった。
 そういえば、いつも重力室にべったりの彼が、こんなに長く留守にしたのは初めてなのではあるまいか。彼女はさすがに心配になってきた。探しに行った方がいいかもしれない。カプセル類を持ち出していない以上、長く留守にするつもりは無かっただろうと思われる。途中で気が変わったならそれでいいが、傷でも負って、どこかで動けなくなっているのだとしたら―。
 まあ、まさかとは思うけど。
 正に、まさかである。特に、超化を果たした今の彼にそんなことが起ころうとは、ちょっと思えない。どうせ何でもなくて、邪魔者扱いされるだけだろうが、無事を確認出来ればそれでいい。あの男の非礼になど慣れっこだった。
 真新しい重力室には、真新しい建造物の独特の香りと、真新しい精密機器の発する無機質な香りが満ちている。彼女は、点検と作動確認のためにそこにいた。一度も使用されていないそこに、それは必要ないと分かっていたが、彼女は暇を見つけては通っている。
「放っとけないのよ。何となく」
 思わず口にしたそれは、この場所のことではなかった。



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