ベジータ王子の華麗なる毎日


「ねえパパ、年も改まったし、うちに新しい習慣を取り入れてもいいと思うんだ」
「藪から棒に何だ」
「お年玉ちょうだい」
「なに、何を落としただと」
お と し だ ま だよ!何聞いてんのさ!」
「オトシダマとは何だ」
「お正月にもらうお小遣いだよ」
「そんな事はブルマに・・・お前、またか?何に使う気だ、ちょっと金遣いが荒いんじゃないか」
「だからそういう事じゃなくて・・ってかパパにそんな事言われたくないよ」
「どういう意味だ」
「パパって何気にお金掛かってるんだよ、知らないだろうけど」
「俺の何に金が掛かるというんだ?俺は飲みも打ちも抱きもしないぞ」
「子供に向かって剥き出し過ぎる言い方だよねそれ」
「お前のように悟天と二人でマクドナルド一軒食い尽くした事もないし」
マキシムでそれやる人に言われたくないよ
「遊園地でジェットコースターを壊して弁償させられた事も無い」
重力室の修理代って一回いくら掛かるか知ってる?
「お前もいい加減に経済観念ってものを身に付けたらどうだ」
「そっくり返すよその台詞。パパはパンツ一枚から特注のくせして」
「なに、それは本当か?」
「ほら、やっぱり知らないんだ。パパの服装って特殊だからね、ママ色々工夫しないといけないのさ」
「なるほど、既製品じゃサイズが無いんだな・・」
「ホント話聞いてないよね」



「おいカカロット」
うわっ!びっくりした!ベ、ベジ・・う、うぐぐ」
「ああっ、お父さんの喉にお餅が!」
「スーパーサイヤ人の意外すぎる死因その2!」
「その1は心臓病か?ちなみに悟天、お父さんまだ死んでないぞ」
「あぐぐ・・た、たすけ・・・」
「それにしてもまー、正月から破廉恥な格好だべなベジータさ」
「誤解を誘うような言い方をするな!」
「ぐ・・・ぐるじ・・・・・い・・」
「お母さん、おじさんは普段から全身タイツだよ」
「あのな悟天、問題はそこじゃない」
「そうだぞ悟天、ベジータさんのボンデージファッションは肉体美の追求なんだ。ああして常日頃他人に見せ付ける事でさらに磨きを掛けているんだぞ。一つ間違うといや間違わなくても歩くセクハラだけど、この美意識の高さだけはお前も見習わなきゃ」
「貴様は引っ込んでろ悟飯!ボンデージとか余計話がややこしくなるだろうが!」
「まあ、とりあえず明けましておめでとうさんだ」
「んあー・・・あー死ぬかと思った」
「なんだ、無事だったのけ」
お母さん、そりゃちょっと冷たい・・・
「そんで、正月から何しに来たんだ?ベジータ」
お父さん気付いてないみたいだから平気だよ、兄ちゃん
「そうだカカロット、貴様トランクスに金をやっただろう」
「へ?」
「ああ、お年玉のことけ?朝イチで一緒に初詣に行ったんだけんど、そん時な」
「貴様か!余計な真似を・・」
「なんだべさ」
「あいつにそんな悪習を吹き込むんじゃない、俺まで小遣いをせびられたぞ。西の都じゃ正月から餓鬼共に金をやるなんて馬鹿げた習慣はないんだ」
「なに言ってるだ、トランクスにも毎年あげてるだよ、お年玉」
「なんだと、じゃあなんで今年に限ってあんなこと言い出しやがったんだ?」
「そういやさっき賽銭箱の前で手ぇ合わせて、パパがどうとかブツブツ言ってたな。可愛いじゃねえか、きっとおめえがお年玉くれるようにって頼んでたんだぜ」
「そんで、せびられてどうしただ?おめさもお年玉やったのけ?」
「俺は現金は持ってない」
「んだな、働かねんだもの。当然だ」
「ま、まあまあ」
「何が『まあまあ』だ!?悟空さ、おめだって同じだ、一銭だって稼いで来たことなんかねえじゃねえだか!」
「仕方ないから代わりにカードをやった」
「へ?」
「?物が買えるカードだ。同じことだろう」
「クレジットカードのこと?」
「そうだ」
「どこの?」
「アメックス」
「・・ちなみに何色でしたか?ベジータさん」
「黒」
セ・・・センチュリオンカードだ!
「細木数子だ!」
「みのもんただ!」
「美川憲一だ!」
「叶恭子だ!」
「うわあ、何おごってもらおうかなあ!」
「こら悟天、さっそく出掛けようとするんじゃない!抜け駆けは許さ・・じゃない、はしたないぞ!行くんなら兄ちゃんも一緒だ!」
「どうして?」
「失礼の無いように監督する責任があるからさ」
「いつもは『悟天はもう大きいんだから一人で行っておいで』って言うくせに」
「おめさ、なしてそったらもん持ってるだべ!?」
「なんだ?そのセンチュ・・なんたらちゅうのは」
「センチュリオンカードですよ、お父さん。貯まったポイントでアルファロメオを買ったという、福引の肉マン一年分券当てるために商店街で買い物しまくる剣菱悠理を髣髴とさせる人がいたという伝説を持つ、あの・・」
「そのアルファなんたらちゅうのは食いもんか?」
「黙るだ悟空さ!ベジータさ、なして稼ぎもねえおめさがそったらもんを持って・・ああっ!」
「何です!お母さん!?」
「分かっただ!どっかの金持ちから盗んだだな!?」
「盗むか!第一それじゃ使えんだろ!」
「そんじゃ、どっかの金持ち女と愛人契約でもしただか!?
「男でも問題なさそうですけど・・って何を言わせるんですか、お母さん!
「やんだー!見かけ通りイヤラシイだ!」
「・・・今聞き捨てならん台詞が聞こえたな・・『見掛け通り』ってのはどういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ、深読みする必要はありません」
「冷静に説明せんでいい!勝手に想像を暴走させるな!」
「そんじゃどうしたんだべ?」
「ブルマが寄越しやがったんだ!買い物するときに使えとな!普通そう考えるだろ!なんで俺がどっかの男だか女だかに身体を売らにゃならんのだ!?」
「そういや、おばさんもセレブだった」
「無用心だなあ、ブルマさも。こったら常識のねえ男にそったら恐ろしいもん持たせるなんて」
「そんでおめえ、それで何買ったんだ?」
「・・・・・貴様に関係ないだろ」
「あんれまあ、赤ぐなって・・案外可愛いだなあ」
「チチ、おめえ分かるんか?」
「想像付かねえだか?こん人が買い物するっちゅうと・・」
「シェービングクリーム?」
「悟天、それはまだ先(GT)の話だべ」
「あ、分かった!ブルマさんのエッチな下着でしょ。だから赤くなったんだ」
・・・・・死にたいらしいな、悟飯
「だめだなあ悟飯、それ言うんなら『ホッカホカのエッチな生下着』って言わねえと」
「いや自分の持ちネタでパロりたい気持ちは分かるんですけど、それだと凄まじい語弊がありますから、お父さん」
「語弊ってレベルじゃねえだべさ」
「そうですね、『ホッカホカ』『生』だけでこんなに意味が変わるって、ここまで来るともう一種のイリュージョンですね
「んだ、引田天功も真っ青だ」
貴様ら・・・
「イリュージョンって何だ?ヒキタテンコウって食えるのか?」
「黙れカカロット!貴様のワンパターンは聞き飽きた!」
「えー、違います?じゃあ・・・うーん何だろ、それ以外全然思い浮かばないや
「何だその『むしろ買うの当然』みたいな言い方は!大体『それ以外思い浮かばない』って、俺を何だと思ってやがる!
「もうー、勿体ぶっちゃって。ベジータさんってお茶目だなあ」
「誰が勿体ぶってるんだ誰が!・・・車だ!」
「クルマ?」
「なんだか知らんが、ブルマのやつが俺に買って来て欲しいと言いやがるから・・」
「へえー、おめえがなあ」
「結局ブルマさ絡みではあるわけだな」
兄ちゃん、おじさんなんで赤くなったんだろ
その車に赤面するような思い出があるんだろうね、既に
「はあー、羨ましいだ。オラも旦那様の運転する車でドライブがしてみてえ」
「い、いや別にベジータが運転するって決まってる訳でも・・」
「セル戦前にしてたじゃない、家族でドライブ」
「悟天、なんでおめがそれ知ってるだ?そんときゃおめえ影も形も無かったはずだべ?」
「車種は?何を選ばれたんです?」
「SLRマクラーレンとかいうやつだ」
「ギャアアアア!」
端数でレクサスが買えるじゃねえべか!」
「って言うか店主がUPするの忘れ去ってるうちに年式上がって価格も上がって端数ゼロになってますよ、お母さん!」
「おじさんの車?」
「らしいな。選んだだけのつもりだったんだが、駄賃だと言ってそのまま俺に押し付けやがった。たまに自分で使ってやがるが」
「お駄賃ですか・・」
「ははは、おめえそれチビッコのやる『はじめてのおつかい』みてえだぞ」
「遠吠えにしか聞こえないから余計な事言わない方がいいですよ、お父さん。それより、免許持ってるんですかベジータさん」
「ふふん、持ってなくて何の問題がある?警察の奴らに捕まるなんぞ、この俺がそんな間の抜けた羽目に陥るとでも思うか」
「別に警察に見せるために免許証持つわけじゃねえべさ」
「なるほど御本人は逃げ切れるでしょうね。でも罰金は喰らいますよ、オービスとか赤外線カメラなんかで撮られると」
「はっ!そ、その手が・・・」
「家に罰金の納付書が送り付けられてきて〜♪」
「おばさんに怒られちゃう〜♪」
「ぐ・・・くっそー、なんて姑息なことしやがる連中だ!」
「常々思ってたけんど、賢いんだかアホなんだかよくわからねえ人だな
「おじさん愛してる!」
「何をする悟天!抱きつくな、気色悪い!」
「オラも愛してるだ!」
「な・・・!?」
「チチ!?」
「うるせえぞ、この甲斐性なし!オラたった今からこん人に乗り換えるだ!」
「チチぃ!」
「あ、あのなお前」
「おじさん、ひどいや!お母さんは良くてボクはダメなの!?」
「いやそういう問題か!?ええい離せ・・おい悟飯、ぼんやりしてないで止めろ!」
「パシャ」
「何撮ってやがる!」
「ささ、この写真をネタに当分ベジータさんを強請(ゆす)れますよ。ベジータさん、これブルマさんに見られたら困りますねえ」
「おう、やったな悟飯!さすがグレートサイヤマン!」
「悪はぜったいゆるさない!」
「シャッターチャンスも逃がさない!」
「この極道父子!
「ふう、やれやれだ。働かねえ亭主を持つと苦労するだよ」
「母親もグルか!悟天、貴様は・・・あいつどこ行きやがった?」
「ああ、フジカラーですよ、うちプリンタ無いんで」
「お店プリント!?」



「ママ、これママから返しといてあげて」
「あらやだ、これベジータのブラックカードじゃない。あいつどっかに落としてたの?」
「ううん、オレが『お年玉ちょうだい』って言ったら、これくれたんだ」
「・・・バッカじゃないの」
「だめだよ、パパの社会勉強にって思ったんだろうけど、ちゃんと教育しとかないと」
「・・ハイ」
「オレだって子供が持ってちゃマズイって事くらい解るよ、実際に使えるかどうかは別として」
「よく躾けておきます・・」



 ベジータ王子の華麗なる毎日。



2007.1.8 SSBlog掲載 / 2008.6.29 UP