怪 談


「うう、あついよ・・」
「たまんないわね・・」
「夏だからな」
「・・ク、クーラー・・・」
「停電じゃ仕方ないだろ、文句を言っても涼しくなるわけじゃないんだ、少し黙ってろ」
「自家発電分回そうかしら」
「好きにしろ、ラボでやってる実験がパアになってもいいってんならな」
「・・・なるわよね、やっぱり」
「そうだパパ、なんかコワい話してよ」
「怖い話?」
「怪談話か・・そうね、背筋の寒くなるようなのを一つ頼むわ」
「持ち合わせがない」
「えー」
「なによう、ケチ」
「そういう類のものは、ほとんどが当人の妄想が作り出してるものだろ。怖いと思うから見聞きするんだ、俺がそんなものに縁がある訳ないだろうが」
「そう言うけど、あんた知らないでしょう。C.Cの七不思議」
「知らん」
「ボク知ってるよ!その一はねえ・・」
「興味が無い。下らん事をベラベラ喋るな」
「いいじゃない、聞いてあげなさいよ」
「黙れ、暑苦しい」
「・・はーン」
「何だ」
「コワイんだ、あんた」
「フフン、非科学的な世迷言の何が怖いと言うんだ?貴様も科学者なんだろうが」
「でもあたし経験あるのよ」
「ハ、何を言い出すかと思えば」
「え、ママゆうれいに会ったことあるの!?」
「うーん、似たようなもんね。聞きたい?」
「うん!」
「もう随分前の話になるわ。西の都にしちゃ珍しく、凍りつきそうに寒い夜だった」
「・・やれやれ」
「その日はひどく疲れてて、家に帰るとそのままベッドに潜り込んだの」
「それはいつの話だ」
「あたしが二十歳前後の頃だったわね。あんた想像できる?自分の妻がどんなにキュートで可愛かったか・・もちろん今でも十分美し」
「寝る」
「ちょっと待ちなさいってば!話はこれからなのよ!」
「だったら脇道に逸れるな、我慢して聞いてやってるのがわからんか」
「だって、あんた自分の話してくれないじゃん・・・ま、いいわ、それで夜中に目が覚めたのよ」
「おお、そりゃ確かにホラーだな」
「なによ、それどういう意味?」
「貴様が夜中に目を覚ます事などありえんからさ。俺の顔を殴ったり腹の上に脚を投げ出したりして朝までぐっすり眠りこけてやがるだろうが」
「ママねぞう悪いからなあ」
「う、ウソ、そんな事してる?最近、目が覚めたらいつもあんたに抱っこされてる気がするけど」
「何言ってやがる!あれは貴様が暴れまくるのを押さえ込むためにやってるんだぞ!」
「ええ、そうね。ハイハイ」
「真面目に聞け!」
「いいのよ、あたしを抱いてなきゃ眠れないってんじゃ格好つかないものね。あんたにはそういう理由付けが必要なんだわ」
「ふーん、そうなんだ」
「だから違う!
「それでそれで?どうなったの?」
「無視か!」
「そう、夜中に目が覚めてね。そしたら体が固まってて言う事きかないのよ」
「金縛りか?つくづく後進的な星だぜ、そんなもののメカニズムさえ解ってないとは」
「バカね、そんなのとっくに解明済みよ。身体が睡眠状態で脳だけ覚醒してる時に起こる現象だってんでしょ。違うのよ、怪談なのはこのあと」
「体が宙に浮いたとか言うんだろ」
「なにそれ、そんなの普通じゃん」
「トランクス、ママは普通の人間なのよ。忘れてるかもしれないけど、地球じゃ人間が飛ぶってのは常識外なの」
「そ、そうだったね」
「違うの、体が浮いたとかじゃないのよ。部屋にはあたしの他に誰もいなかったはずなのに、隣で誰かが寝てる気配がするの・・・
「え・・オレちょっとそういうの弱いかも・・・」
「ふっふっふ・・今更引き返せないわよ〜」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
「あら、なによ」
「オチが見え見えなんだ。ヤムチャの野郎が潜り込んで来てやがったとか言うんだろ」
「悪いけど違うわ。あいつは疲れて眠ってる女の寝込みを襲うような真似はしない男だわよ、あんたと違って
「ふーん、そうなんだ」
「黙れトランクス!」
「そうなの、困ったパパでしょう」
「それで寝込みをおそうって、なにするの?」
「トトトトランクス!も、もう寝ろ!
『寂しいよー』ってママのベッドに忍び込んでね、触ってくるの」
「よせ、よすんだ!」
「オッパイとか、お尻とか、あと」
ブルマアァ!!(裏声)トランクス、早く自分のベッドへ行け!こいつは暑すぎて脳が溶けかかってる!取り返しがつかなくなる前に行くんだ、早く!
「あと、キスしてきたりね。あったかーい、やわらかーい、きもちいーいって。それでママがヨシヨシしてあげると、スッキリして眠るのよ」
「ふーん」
「赤ちゃんみたいでしょ」
「貴様・・後でおぼえてろよ・・・
「でもさ、そんなのいつもリビングでやってるじゃん
「トランクス!?」
「うふふ、でもリビングじゃ服着てるでs」
ヨセエエエ!!(絶叫)ガキの前なんだぞ!」
「うるさいわねえ、分かってるわよ。だからボカしてるじゃない」
「あれで!?」
「ねえねえ、それでどうなったの?コワいけど気になるよ」
「そう、それでね、体が動かないもんだから目だけ動かして隣を確かめたのよ。そしたらさ、透明人間が寝てるみたいな空間が出来てるのね。毛布は盛り上がってて人が寝てるみたいになってるんだけど、そうそう、御丁寧に枕まで窪んでたわ、でも姿は見えないのよ・・・」
「う、うん・・・ゴクリ・・」
「ぞーっとしたわ。金縛りはこういうものだって頭では分かってるんだけど、物凄くリアルでさ、体温も感じるし、息遣いまで聞こえてくるの。体がこっち向いてて、あたしのことじっと見てるって分かるのよ」
「うん・・」
「で、動けない、声も出せないってまま固まってるとね、そいつが動き出したのよ。あたしの左手に触って、そのまますーっと肩まで撫で上げてくるの・・・
「ゾゾゾ・・・」
「で、そのままのしかかって来たか?お前、欲求不満だったんじゃないのか」
「おあいにくさま。そのころはヤムチャとラッブラブだったわよ、悪いけど」
「・・・・(ムカアアア)」
「それきり、そいつは目を閉じたの。あたしの腕に触れたままね」
「目を閉じた?透明なのにお前にそれが分かるってのか」
「視線を感じなくなったのよ。そいつすっごい目力だったの」
「それで?」
「それで、なんだかそうするのが自然な気がして、あたしも目を閉じたの。次に目を開いた時には金縛りが解けてて、そいつも消えてた」
「それだけ?」
「そう、それだけよ。でも今になってみるとね、あいつが誰だったのか分かる気がするの」
「え?」
「最初はビックリしたけど、触れられた時にね、なんかすっごく安心したのよ。そりゃヤムチャの事は好きだったけど、それ以上の何かを感じたわ。ずっと一緒にいたい、離れたくないって思った」
「・・・・・」
「匂いも感じたのよ」
「どんな?」
「いーい匂いよ。ママが大好きな匂い」
「・・あー、分かった気がする」
「あれはベジータだったんだわ、きっと。あんたに初めて近付いたとき、妙に懐かしい気がしたのよね。しばらくは、なんでかなって思ってたんだけど、後になって気付いたの。あの時の透明人間と同じ匂いがしたからなんだって」
「不思議だね」
「本気にするな、トランクス。後でこじつけたんだ。意識してなくても、人間の記憶なんてその程度に曖昧なものだからな」
「そうかもね。でもあたしは、あのとき未来を感じてたんだって信じてる」
「・・・・・」
「愛してるわ・・」
「フン・・」
「(ああもう、また始まっちゃうよ・・・あつくるしい・・)」
「あら明るくなったわ、復旧したみたい」
「あー!(色々)助かったあ!」
「生き返るわ〜。それにしてもやっぱり暇つぶしはベジータに限るわね
「ひ、ひま潰し!?まさかお前、俺をオモチャにしてやがったのか!?」
「自覚無いのがパパのいいところだと思うよ」
「トランクス!?」


2009.9.6 UP